分が悪そうな健二に加勢するように、翔子がここぞとばかりに捲し立てた。

二十年前に特許を取得したねじの技術は、萌の父と田辺が何年もかけて必死に研究開発した努力の結晶だと聞いている。そんな田辺に対し、技術を盗んだだの恥知らずだの言われ、初めて叔父たちに対し強い怒りが湧き上がる。

しかし田辺と晴臣は萌と違い、彼らに呆れ返った視線を向けた。

「会社を経営していながら、そこまで無知でいられるなんて。秋月はさぞ無念だろう」
「同感ですね」

大企業の副社長を前にずっと低姿勢でいた健二だが、さすがに〝無知〟と非難されたのを聞き逃がせなかったのか、苛立ちを隠さぬ表情で晴臣を睨みつける。

「……どういう意味だ」

凄む健二を意に介さず、晴臣は淡々と告げた。

「特許権の存続期間は二十年と決められています。秋月工業の前社長が取得されていた特許は、すでに三ヶ月前に切れているんですよ」
「な……っ、なんだと……?」
「田辺ネジさんはさらに改良した製品の産業的利用価値や進歩性が認められ、早期審査を経て先日特許権の取得に至っています。今後はこのねじをさらに進化させ、桐生自動車のものづくりの根幹を支えてもらうつもりです」