萌の意図を汲み取った晴臣は一度ぎゅっと目を閉じて大きく息を吐ききると、一切の笑顔を見せずに秋月一家に対峙した。

その横顔は萌でさえ背筋が凍るほど冷淡な顔つきで、握っていた手にさらに力を込める。

「お久しぶりですね、秋月社長」
「こ、これは晴臣くん。いや、副社長に就任されたんでしたな。ご無沙汰しております」
「随分お話が盛り上がっていたようですが」

どこから晴臣に聞かれていたのかと、健二や翔子が顔を引き攣らせている。それを意に介さず、彼は毅然とした声で話し始めた。

「以前の秋月工業は毎年多数の新しいねじが開発され、我が社もその一部を使用していました。しかしある時からねじの品質が落ち始め、御社が特許を持っているねじを使用した車種の生産が中止となったのをきっかけに、他のねじも他社のもので代替が利くと判断したんです。田辺ネジさんは関係ありません」

晴臣からきっぱりと〝取引の中止は品質低下が原因である〟と突きつけられ、健二はたじろぐ。けれど納得ができないのか、「いや、しかし……」と食い下がった。

「実際、今はそちらの田辺ネジと取引を始めたのでしょう。彼の製品は、あきらかにうちの模倣です」
「そうですよ! 田辺社長は以前はうちに在籍していたんです。秋月の持つ技術を盗んで自分の会社の利益にするだなんて、恥知らずにも程がありますでしょう? 特許侵害に値するのも、それについて損害賠償を要求するのも当然です」