どれほど年上で地位が高い相手にも、晴臣は怯まず笑顔で対応していた。謙虚でありながら対等に意見を交わし合うその姿は頼もしく、仕事をしている姿を初めて見た萌は普段の優しく穏やかな雰囲気の晴臣とのギャップにときめいてしまう。

「きっと田辺社長たちも来ているはずだ。あとで挨拶に行こう」
「はい」

晴臣の主導するプロジェクトは田辺ネジと正式に契約し、共同で新型車用のねじの開発に乗り出すことになったらしい。

詳しいことは萌にはわからないが、軽くて丈夫なねじが作れれば車体を軽くできる。車体が軽くなれば燃費の向上が見込まれるため、環境にいい車が作れる。環境省も推進している地球に優しい車を作るべく、桐生自動車と田辺ネジは手を取って開発を進めていくようだ。

そのため今日のパーティーに田辺と康平も呼ばれており、一緒に上京した理恵がこのホテルの上階の部屋で光莉と晴臣を見てくれている。

「とはいえ、こんなに可愛い萌を彼に見せるのは癪だな」
「え?」
「思った通り、多くの男性が君に見惚れていた。ひとりずつ挨拶するよりも、壇上で俺の妻だと周知した方が効果的かな。中締めの挨拶の時、萌も一緒に登壇する?」

とんでもない提案をされ、萌は必死に首を横に振った。