『小倉さん、あまり萌にプレッシャーをかけないでください』
『失礼しました、逃げられては大変ですからね』

クスッと笑う小倉を、晴臣は目を細めてじろりと睨む。

どうやら副社長と秘書という関係性よりも多少砕けた雰囲気のようだ。多忙な晴臣を支えてくれる小倉がいい人そうで、萌はこっそりホッとしたのだった。

パーティーでは萌自身がなにを話すわけでもない。晴臣の妻として紹介され、笑顔で会釈をしていればいい。しかしその相手が恐ろしいほど地位のある人たちばかりで、緊張するなと言う方が無理な話だ。現役の環境大臣に紹介された時は腰が抜けるかと思った。

パーティーが始まって一時間ほど。晴臣は近くのスタッフからドリンクを受け取ると、会場の端へ萌を促した。

「疲れた? これで大体の人に挨拶できたと思う。付き合ってくれてありがとう、萌」
「いえ。私は隣に立っていただけなので」
「それでも足は痛いだろう。座って休んで」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」

気遣う言葉を掛けながら萌にグラスを渡してくれる晴臣は、光沢のあるグレーのパーティースーツに身を包んでいる。

(妻の贔屓目なしに、仕事モードの晴臣さんも抜群にカッコいい……)