その様子で自身の言葉に確信を得たのだろう、晴臣は強い眼差しで言い切った。

「もし今の環境を変えたいと思うのなら、俺を利用すればいい」
「利用……?」
「俺は結婚に憧れているわけじゃないから相手の女性に対する希望や要望はないし、それなりに円満ならそれでいいと思ってる。ただ、相手はそうじゃないかもしれない。結婚生活に夢を抱いている女性は少なくないだろうしね。もちろん誠実な夫であるつもりだけど、同じだけ愛情を返せと言われて実現できる保証はない。だからこそ、君とならうまくやっていけると思った」

彼の言う意味が理解できず、萌は彼の言葉の続きを待った。

「俺は両親を安心させるため、そして会社を継ぐ身として社会的信頼や跡継ぎを得るために結婚したい。君はあの家族から離れるために、結婚という手段を使って家を出る。お互いにメリットがあると思わないか?」
「家族から、離れるために……」

両親を失った中学二年生から今日まで、何度も考えた。

学生時代、明るく素直だった萌に友達は少なくなかった。両親の死後、家事を押しつけられるのが辛くて友人の家に泊まりに行くと、数日後にはその友人は萌を無視するようになった。