当時、給料のほとんどを叔父夫婦に搾取されていると聞き、自分が頑張って稼いだお金は自分のために使えばいいと告げたにもかかわらず、萌はお礼がしたかったのだと言って甘党な晴臣のためにケーキを作ってくれた。
そんな萌の優しさや純粋さに惹かれたのを鮮明に覚えている。そう伝えると、萌は驚きつつも嬉しそうに微笑んだ。
「食べようか。キッチンにケーキナイフがあるって言ってたな」
ひとり分にカットしたケーキを皿に乗せて、ケーキと同時に頼んだ紅茶と一緒にセッティングする。萌は「いただきます」と手を合わせてから、ゆっくりと口に運んだ。
「美味しい……! なめらかで濃厚で、幸せの味です」
「よかった。チョコにして正解だったね」
「私がチョコレート好きなのは、晴臣さんの影響ですよ」
「俺?」
「初めて晴臣さんの家に行った日、私にホットチョコレートを作ってくれたの覚えてますか?」
晴臣の脳裏に、叔母や従姉妹に理不尽に罵られ、怪我までさせられている萌をあの家から連れ出した日の記憶がまざまざと蘇ってくる。
彼女たちから離れられるという希望と、晴臣からの唐突な結婚と同居の提案に、萌の心は目に見えてグラグラと揺れていた。