光莉は陽太よりも言葉を話すのが早く、理解力もある。もしかしたら今日の田辺家での大人の会話が聞こえていて、幼いなりになにかを感じ取っているのかもしれない。

「……晴臣さんがパパだったら、嫌だ?」

必死で冷静さを装っているが、ドクン、ドクン、と心臓が大きく暴れるように脈打っている。それはきっと、少し離れた場所で見守っている晴臣も同じ心境だろう。

辛抱強く光莉の言葉を待っていると、彼女は大粒の涙をぽろりと零した。

「だって……」
「うん?」
「パパ、うみのあっち、いく? バイバイ、なりゅ?」

拙い光莉の言葉だが、萌には彼女の考えがすべて理解できた。

萌は父親について『パパは海の向こうで車を作っているから会えない』と説明していた。

もし晴臣がパパなら、また海の向こうに行ってしまうかもしれない。光莉はそう考えて、晴臣と仲良くなるのを躊躇っているのだ。

「ひかり、おみしゃん、すき。バイバイ、やだ。パパ、やだぁ……っ」
「光莉……」

彼女の言葉と涙に、萌は目頭が熱くなった。