「その彼はうちの可愛くて優秀な経理に惚れてるなってひと目でわかったからね。遅かれ早かれこうなるかもしれないと思っていたんだ」
「社長……」
「技術者だけじゃなく事務職も何人か募集をするから、竹内さんだけに皺寄せがいくこともない。仕事についてはなにも心配はいらないよ」
萌の考えなどお見通しだとでも言うように、田辺は大丈夫だと大きく頷いた。
萌が働く田辺ネジは名古屋にあるため、都内に生活拠点を置く晴臣と一緒に暮らそうと思うと仕事は続けられない。
しかし散々世話になったのだ、結婚が決まったからといってすぐに辞めるなんて恩知らずな真似はしたくなかった。
職場に迷惑をかけず、双子にとって一番いい方法を考えたい。そう萌が晴臣に伝えると「もちろん。どうするのが一番いいか、一緒に考えよう」と彼も言ってくれていたのだ。
それなのに、まさか田辺が萌と晴臣の様子から事情を察し、先手を打っているなど思いもしなかった。
「僕らにとって萌ちゃんは本当に娘みたいな存在だし、光莉ちゃんと陽太くんは孫のように思ってるんだ」
田辺は萌に向けていた穏やかな表情から、真剣な眼差しを晴臣に向ける。