「愛してる」
「私も、晴臣さんを愛しています」

彼の顔がゆっくりと近づき、口づけの予感に心臓がうるさいほど高鳴る。

そっとまぶたを伏せた瞬間、陽太の「んんー」という唸り声が聞こえ、反射でぱっと晴臣から離れた。

どうやらベビーカーの中で寝返りをうっただけらしい。親指をくわえてそのまま眠ったが、今のでようやくここが水族館の中だと思い出した。

慌てて周囲を見渡したが、出口付近のためあまり人はおらず、暗がりなので誰にも見咎められてはいなさそうだ。

萌がほっと胸を撫で下ろすと、隣で晴臣がおかしそうに笑った。

「残念。誓いのキスはお預けだな」
「は……晴臣さんっ」
「萌からはじめて『好き』だと言葉にしてもらって浮かれてるんだ。このくらいは許して」

そう言うと、唇ではなく頬にキスを贈られた。たったそれだけの触れ合いも、三年ぶりとなれば恥ずかしくて堪らない。

「う、嬉しいですけど、外ではダメです。ドキドキしすぎて歩けなくなっちゃいますから」

顔を真っ赤に染めて頬を押さえ、潤んだ瞳で恨めしげに晴臣を見上げる。すると彼は「そうだった……いつもこうやって返り討ちにあってたんだった」と目元を押さえて天を仰いでいる。

なんだかむず痒い空気が流れ困惑していると、晴臣が「行こうか」とベビーカーを押し始めた。

「ふたりはあとどのくらいで起きるかな」
「一時間くらいだと思います。だいたいおやつの時間に目が覚めるので」
「じゃあ、それまでは恋人同士のデートを楽しもうか」

甘い声音と眼差しで誘われ、萌ははにかみながらもようやく彼に笑顔を向けて頷いた。