「俺と結婚しませんか?」

ぼうっと聞き惚れていたせいで、彼が発した言葉が耳をすり抜けてしまった。

「……え?」

一瞬、結婚しませんかと聞かれた気がする。

けれど、まさかこんな安物の服を着て酷い頭をしている女相手に言うセリフじゃない。

「す、すみません。よく聞こえなくて」
「結婚しませんか? 俺と」

今度こそ、きちんと聞こえた。

春の暖かい風がふたりの間をざぁっと駆け抜けていく。

翔子や玲香から「貧相な身体」と嘲笑されるほど痩せこけた萌は、強い風と彼の口から出た予期せぬ発言に思わずよろめいた。