だからこそ、それ程までに素晴らしい場所を今の自分の身なりで歩いているのが震えるほど恥ずかしいし、晴臣にも恥をかかせてしまうのではないかと不安で仕方ない。

幸い今は周囲に人はいないようだが、いつ誰の目に留まるかしれないのだ。

彼がなにを思って萌をこの庭に連れ出したのかはわからないが、早く用件を済ませてこの場を離れなくては。

萌がそう思って身を小さくしていると、晴臣が足を止めて萌を振り返った。

「秋月萌さん」
「……はい」

晴臣は容姿だけでなく、声もいい。

ただ自分の名前を呼ばれただけで、萌の意識はすべて彼に奪われた。晴臣の声で呼ばれると、まるで自分の名前がとても美しい響きに聞こえる。