その時、コンコンと目の前の玄関の扉がノックされる。
ハッとして奥のリビングの時計を振り返ると、すでに約束の時間の十分前。おかずの入った保冷バッグを持ったまま慌てていると、ドアスコープを覗いて外にいる人物を確認した康平がドアを開けた。
「こんにちは、桐生さん」
「あなたは……田辺さん? どうしてここに」
にこやかに出迎えた康平に対し、一瞬驚いた表情をした晴臣は眉を寄せて鋭い視線を康平へ向けている。
「怖い顔をしないでください。母からの差し入れを持ってきただけで、部屋には上がってませんよ」
「……そうですか」
「ははっ。大企業の御曹司のその顔を見れただけでよしとするか。じゃあ俺はこれで。萌、またな」
「あっ、康平くん。ありがとう」
振り返らずに手を上げて康平が出て行き、バタンと玄関の扉が閉まった。唐突に晴臣とふたりで向かい合うことになり、急に緊張感が増してくる。
「は、晴臣さん。すみません、実はまだ双子の準備が……」
「彼はよくこの家に来るの?」
「えっ?」
すぐに家を出られないと謝罪しようとした萌と、晴臣の質問する声が被った。