「叔父と叔母の不正を知っていただけじゃない。私が、それを告発したんです。誰にも相談しないまま……」

当時のことを思い出すと、胸が苦しくて張り裂けそうに痛む。それでも萌は真実を打ち明けた。真摯に想いを告げてくれる晴臣に対し、自分もまた誠実でいたいと感じたのだ。

「三年前、晴臣さんの海外出張中に叔母から会社の手伝いをするよう電話が来たんです。だから私、もうこれっきり縁を切ってほしいと頼むために実家へ行きました。あなたと生きていくために、私から決別をするべきだと思って……」

そこで経費の不正使用に気づいたが、そのまま計上するように指示をされたこと。その行為は犯罪であり、正すように叔父と叔母に初めて意見をぶつけたこと。

萌は記憶の引き出しからひとつずつ取り出して話していく。

「でも聞き入れてもらえなくて、それどころか私と晴臣さんが結婚することで、桐生家や桐生自動車からの援助や補填をあてにしているような口ぶりで……。私ひとりでは止められなかった。だから……」
「萌」
「父が大切にしていた会社を……まだたくさんの従業員の方がいるのに、倒産してしまうかもしれないと思いながら、私は……」
「君はなにひとつ間違っていない。不正に気づいても告発するのはかなりの勇気が必要だっただろう。それがあの一家相手ならなおさらだ。よく頑張ったな」

膝の上で硬く握る萌の手を、晴臣が優しく包み込む。

葛藤や不安をすべて溶かすような温かさに縋りつきたくなって、慌てて手を引いた。