(今日はこのまま、私との話はなかったことになるんだろうな……)

彼女たちの思惑通り玲香が気に入られれば丸く収まるだろうが、現状を見る限りそうはいかないだろう。それは桐生家側の表情を見れば明らかだ。

そうなれば桐生自動車と縁続きになれると意気揚々としていた叔父からどんな叱責を受けるかわからない。

ため息をつきたいのをグッと我慢し、いつものように思考を放棄しようとした、その時。

「少しいいですか」

凛とした低くハリのある声が個室に響く。これまで会話に加わろうとしなかった晴臣だった。

「できれば、萌さんとふたりでお話をしてみたいと思うのですが」

彼の口から自分の名前が出たのに驚き、萌は弾かれたように顔を上げた。