そう告げると、晴臣は大きく頷いて穏やかに微笑んだ。
「あの一家と縁が切れたのか。よく頑張ったな」
萌を労う晴臣の言葉を聞き、彼の器の大きさに泣きそうになる。
萌が頑張れたのは、晴臣に出会い、自分の意思を持つ勇気を持てたからだ。すべてを諦めて自分の心を殺して生活していた萌に、晴臣が希望をくれたおかげで今の萌がいる。
劣悪な環境から救ってもらい、数えきれないほど世話になっておきながら、酷い言葉で結婚の約束を反故にして逃げ出した自分に、なぜそんな風に言えるのか。
彼の優しさが心に染み込み、目頭が熱くなる。
(もう私に優しくしないで……)
これからは大切な宝物を守りながら、ひとりで生きていかなくてはならないのだ。
それなのにいまだ忘れられない彼から優しい言葉をかけられれば、心が勝手に甘えてしまいそうになる。
混雑しているカフェで泣き出すわけにいかず、萌は必死に唇を噛み締めた。