そう心の隅で思うものの、長年踏み潰され続けた自尊心はぺしゃんこになっていて、なにも反論ができない。萌は悔しさと恥ずかしさから俯いたまま唇をきゅっと噛み締めた。

翔子の言う通り、萌の時間は両親が亡くなって以来ずっと止まっている。

十年前の事故のあと、『引き取ってやったんだから家事は全部あんたの仕事よ』と押しつけられ、実の娘の玲香とは比較できないほど冷遇されて育ってきた。

大好きだった両親の事故死で負った心の傷が癒えぬまま叔父の家で家政婦のような生活が始まり、萌はどんどんやつれていった。

体裁を繕うために高校までは通わせてもらえたものの大学への進学は「金がかかる」と許されず、萌は高校を卒業してすぐに就職している。

それを機にひとり暮らしをしようと考えたものの、家事をさせたりストレス発散にいたぶったりする相手がいなくなるのが困ると考えた翔子が大反対し、保証人を頼めるあてのない十八歳の萌は断念せざるを得なかった。

長年の間、思考を放棄し、感情を表に出さないようにすることで自分自身を守ってきたのだ。