「萌ちゃんが来てくれたから、私は随分楽させてもらってるわ」

竹内はよくそう言って萌を褒めてくれるが、従業員が二十人ほどの小さな会社とはいえ、事務関連の仕事を一手に引き受けていた竹内の優秀さは計り知れない。いつだったかそう本人に伝えたところ、彼女は「年の功ってやつよ」と不敵に笑った。

その頼もしさがどこか母親を思い出させ、萌は田辺一家と同じくらい竹内を慕っている。

三年前までは誰にも頼れずひとり孤独に生きていたというのに、名古屋に来てからは周囲の人にとても恵まれていた。

田辺や理恵はもちろん、心配性の康平も、親子ほど年が離れているが気さくに話してくれる竹内も、他の従業員もみんな萌によくしてくれる。なによりも萌にとっての宝物、光莉と陽太がいる。

守りたいものができた今、これまでの弱い自分から脱却し、地に足をつけた自立した女性にならなくては。

そう思ってこの数年努力してきたのに、ここ数日はなにをしていても上の空だ。

今も決算資料を作成しているが、ふと先週の出来事が頭をよぎるたびにパソコンのキーボードをたたく指が止まり、なかなか集中できないでいる。

先週の金曜日、三年ぶりに再会した晴臣から声を掛けられた際、その場で固まった萌を康平が連れ出してくれたおかげで会話をせずに済んだ。