けれど関係解消を申し込まれたあまりの衝撃に普段の冷静さが吹き飛び、言ってはならないことを口にしてしまった。
「そばにいてくれればそれだけでいい!」
晴臣の言葉に萌は目を見張り、次いで悲しそうに瞳を揺らした。
「叔父一家の次は、あなたに囚われながら生きていかなくてはいけないの……?」
彼女のこのひと言に、晴臣は横っ面を張り倒された思いがした。
これまでひたすらに耐え、自分の意思を押し殺して生きてきた萌。誰にも縛られず、自由に羽ばたかせてやりたい。そう考えてこの結婚を持ちかけた。
それなのに彼女と過ごす時間が心地よく、手放したくない一心で最低なことを口走った。
『そばにいてくれればそれだけでいい』だなんて、自立を許さず、家事を押し付けていたあの一家と同じ轍を踏もうとしているではないか。
自分の思いだけで彼女を海外へ連れていくことは、萌にとって幸せではない。
そう彼女自身によって自覚させられ、晴臣は引かざるを得なかった。
それから間を置かずにひとりニューヨークへ行き、ひたすら仕事に没頭した。