他にも純粋で無垢だからこそ素直な反応をする彼女に何度も心を射抜かれ、すぐに同じタイミングでベッドに入るのが辛くなった。自分でも呆れてしまうほど、萌に触れたいという欲望が育っていたのだ。

最初は同情や庇護欲といった感情だったはずが、徐々に萌に惹かれていき、彼女を守る家族になりたいと強く感じた。

いつ彼女に恋をして、いつ愛し始めたのか、明確な分岐点はない。けれど打算的な結婚を提案した時の、あの希望の宿った瞳を見た瞬間、彼女だと直感したのだ。

そして萌もまた、同じように自分を想ってくれていると信じて疑わなかった。

あの家から救い出したのを笠に着るわけじゃなく、ただ純粋に萌が晴臣を見つめる瞳の中に好意が浮かんでいるように感じていたのだ。

その証拠に、彼女は気持ちを告白した晴臣を受け入れ、すべてを捧げてくれた。心から愛した女性をようやく抱いたあの夜は、大袈裟でもなんでもなく天にも昇る心地だった。

晴臣は海外赴任が決定的となった出張先で萌へ贈る指輪を用意し、ついてきてほしいと改めてプロポーズした。多少緊張したものの、まさか断られるとは微塵も考えずに。

「ごめんなさい。この縁談はなかったことにしてください」

彼女は劣悪な環境から解き放たれたことでひとり立ちしたいと望み、言葉の通じない場所へ身を投じることへの不安を零していた。それは自然な欲求や葛藤だろうと思う。