『そうか! それはいい。まさか萌さんがあんなに酷い扱いを受けているとは……。このままいけば夏には秋月との取引は打ち切りとなる。あの子を救い出すなら今しかないだろうね』

宏一も萌の置かれている状況を今日初めて知ったらしい。親交のあった先輩の娘があのような環境で育てられていた事実に戸惑い以上に憤りを感じていたようで、手放しで賛成してくれたため胸を撫で下ろす。

彼の言う通り、六月に秋月工業から仕入れているネジを使った車種の製造中止が正式に決定するため、萌との入籍が済んでしまえばあの一家とは縁が切れる。

あとは彼女と少しずつ距離を縮め、互いを知り、信頼関係で結ばれた間柄になっていければ。

そこまで考え、晴臣はある疑念に気づいてハッとした。

萌の髪を無理やりまだらに染め、見合いの場で地味だ愚鈍だと散々こき下ろし、恥ずかしげもなく玲香を嫁がせたい願望を前面に押し出してきた母娘だ。

桐生家側からこのまま萌との縁談を進めたいと連絡を受ければ、帰宅した彼女にどれほど辛く当たるか知れない。

あの家族から救ってやりたいと提案した結婚なのに、それ故に彼女が傷つけられてしまうなど本末転倒だ。

晴臣は手早く周囲に指示を飛ばすと、急いで職場から秋月家へと向かった。

悪い予感は当たり、彼女は玄関の外まで聞こえてくるほど大声で侮辱され、さらには怪我までしていた。