社会人になり仕事が楽しくなってからは恋愛に時間を割く暇もないし、両親もお見合い結婚でうまくいっているのだから自分もそれでいいと思っていた。

『僕の大学時代の先輩の娘さんでね。彼の娘さんなら、きっと素晴らしい女性に育っているよ』

そう言う父に付き合う形で出席した見合いにやって来たのは、晴臣がこれまで出会った中でも群を抜いて非常識な一家だった。

日本料理店の個室を用意した意味を成さないほど大きく甲高い声で話す母と、この見合いに一切関係ないはずの娘、それを諌めようともしない父親。

媚びるような発言は聞いていて不快だし、耳障りな大声は店にも迷惑となる。両親がやんわりと話題を逸らそうにも、すぐに母娘が会話の主導権を握ろうとさらに捲し立てる始末。

なにより異質だったのは、見合い相手である女性がなぜか一番末席に座らされ、自己紹介さえもさせてもらえない雰囲気だ。

父から彼女の両親は十年前に事故で他界しており、今は父方の叔父夫婦に引き取られて生活していると聞いていたが、どう見ても良好な関係性には見えない。

叔母の翔子は自分の娘の玲香を嫁がせたいという願望を隠せておらず、自身の見合いでもないのに振り袖を着ていた玲香もまた同じ気持ちでいたのだろう。

言葉の端々に萌を貶めつつ玲香を売り込もうという魂胆が見え見えで、呆れて物も言えないとはこういう心境なのだと妙に納得した。