「萌、あとでふたりだけで話がしたい」

あれだけ身勝手に酷い言葉を投げつけて彼の元を去った自分に、一体なにを話すというのだろう。

どう反応すべきかわからずに唇を噛み締めていると、突然隣からぐいっと肩を抱かれた。

「申し訳ありません。彼女、朝から体調がよくなくて。これで失礼します。萌、行こう」
「こっ、康平くん?」

萌の肩を抱く康平の力は強く、有無を言わさぬ様子だった。

なぜ彼がそんな嘘をついたのかわからないけれど、萌と晴臣の関係を知っているわけではないのだから、きっと萌の態度を見てこの場を離れる手助けをした方がいいと思ったのだろう。

萌は康平の気遣いに甘えることにした。

「すみません。失礼します」

晴臣の顔に視線を戻せないまま萌は頭を下げると、康平とともにその場をあとにした。