桐生自動車の社長である宏一はあからさまに眉を顰めはしないものの、ひとつ咳払いをして彼女たちの話を中断させると、彼から一番遠くの下座に座る萌に話しかけた。

「萌さん。君には一度ご両親の葬儀の時に会っているんだ。お父上には大学時代にとてもよくしてもらってね。覚えているかな?」

貫禄のある雰囲気とは裏腹に、宏一は萌に優しく微笑んだ。

突然話を振られ、萌は驚く。

(お父さんとお母さんの葬儀の時……)

言われるまま記憶を探ってみたが、当時の萌は中学二年生。交通事故で両親をいっぺんに亡くしたショックで、その頃の記憶は曖昧だ。

「すみま――――」
「いやだわ、もう。すみません、愚鈍な子で。お世話になっておきながら覚えていないなんて。本当に母親に似てふてぶてしい。なにも取り柄がなくてお恥ずかしいですわ」