「萌」
「お疲れ様。もう終わったの?」

共同開発の話がどうなったのか知りたくて、萌はなにか言いたげな康平の言葉を遮って尋ねた。

「あぁ、親父が断った。先方の要望を聞くのが俺らの仕事だけどな、理想ばっか語られたって無理なもんは無理だ。それよりお前、顔色悪くないか?」
「そ、そんなことないよ」
「うそつけ。体調悪いんじゃないか?」

康平は呆れた顔をしながら萌の額にかかる前髪をサイドに流し、ゴツゴツした大きな手で体温を確かめる。

「ひゃっ」

いくら彼に対して緊張しなくなったとはいえ、こんな風に距離が近づいたり触れられたりしたことはない。いつもと違った距離感に、思わず肩が竦んだ。

「熱はないか」

康平は手を萌の額に当てたまま頷いた。

萌の顔色が悪いのだとすれば原因は体調不良ではなく、二度と会わないと誓っていた人物に予期せず再会してしまったせいだ。