視界の端に映る彼はなにか言いたげにしているようだが、さすがに商談の場で個人的な話はできないはずだ。

萌はそそくさと応接室を出て、足早に休憩室に逃げ込んだ。

(どうして、晴臣さんが……)

何度頭の中で繰り返したところで答えは出ない。わかっているのに考えてしまうのは、それだけ衝撃が大きかった証だ。

彼も驚いた表情をしていたところを見ると、ここに萌がいるのを知らなかったのだろう。

皮肉な巡り合わせを呪っても現実は変わらない。なんとか晴臣との接触を避け続けなくては。萌は身を硬くしながら自席に戻って仕事を続けた。


その後、約十五分ほどすると、内線で呼ばれたらしい康平が応接室へ入っていった。

先ほどの口ぶりではあまり乗り気ではなさそうだったが、このまま桐生自動車と田辺ネジでの共同開発の話が進めば、今後も晴臣がここに足を運ぶことがあるのだろうか。

気が気じゃないまま時間が過ぎ、午後三時を回った頃、ドアの開いた音がした。

身を隠してしまいたい騒動に駆られていると、先に出てきたらしい康平と目があう。彼はすぐに眉間に皺を寄せ、足早に萌の方へやって来た。