(うそ……!)

そこにいたのは間違いなく晴臣だった。

(どうして晴臣さんがここに……)

あまりの驚きに、動揺で全身に震えが走る。

すべてを諦め、色を失った日々を送っていた萌を救い出し、恋を教え、人生に彩りを与えてくれた人。

それなのに酷い言葉で傷つけて、彼の元から逃げ出した。

懐かしさと愛しさ、押しつぶされそうな罪悪感といった様々な感情が溢れ出し、萌はお盆を持ったまま一歩も動けない。

そして萌を見て驚き固まっているのは、田辺の向かいに座っていた晴臣も同様だった。

オーダーメイドであろうグレーの細身のスーツを着こなし、簡素な事務所の応接室に不釣り合いなほどキラキラとしたオーラを纏った彼が、信じられないとばかりに言葉を失ってこちらを見つめている。

初めて会った時もその美貌に見惚れてしまったけれど、三年経った今はあの頃よりもさらに磨きのかかった男ぶりで、大企業を継ぐ風格を感じさせる佇まい。吸い込まれそうなほど強い眼差しは以前のままで、萌はただ呆然と立ち尽くしていた。