「光莉、まぜまぜしすぎると零れるよ。ゆっくりね。うん、上手。あっ、陽太! お手々で食べないの。ちゃんとフォーク持って」

どれだけ悲しく切ない夢を見て泣きたくなっても、萌には過去に思いを馳せ、うじうじと泣いている時間などない。

名古屋に来て数週間後、お腹の中に命が宿っているのに気がついた。萌が国税庁に匿名で秋月工業を告発した数日後のことだ。

妊娠の事実だけでも衝撃的だったのに、病院で検査を受けると双子だと発覚した。

生むかどうか、迷わなかったと言えば嘘になる。

誰にも頼らずに子供をひとり育てるだけでも容易ではないのに、それが双子となればさらに大変なのは火を見るよりあきらかだ。

田辺の元で働きだしたばかりで、間違いなく迷惑をかけることになる。

そんな時、脳裏に浮かんだのは晴臣の言葉だった。

『いいか悪いかじゃない。萌がどうしたいかだよ』

この言葉に何度救われてきただろう。萌にとって、自分が迷った時に唱える魔法の呪文のようなものだ。

誰のせいでも、誰のためでもなく、自分の心のままに決める。

そう思った時、血のつながった家族がほしいと痛切に感じた。