晴臣がこんな風に取り乱しているところは見たことがない。

その理由が自分自身なのだと思うと、喜びとともに罪悪感ややるせなさがこみ上げてくる。

できることなら、萌だってそばにいたい。今は話せなくても英語だって必死に勉強するし、忙しくなるであろう彼をサポートするため、料理の腕だってもっと磨きたい。

そばにいるだけで彼の力になれるのなら、こんなに嬉しいことはない。

けれどそれは叶わぬ夢。辛くて、悲しくて、泣き叫びたいほどに彼が好きなのに、それでも萌は言った。

トドメとなる、ひと言を――――。

「叔父一家の次は、あなたに囚われながら生きていかなくてはいけないの……?」

萌の放った言葉に、晴臣は目を見開いて絶句する。

(ごめんなさい、晴臣さん……)

晴臣を、そして桐生自動車を、秋月工業の不正の騒動に巻き込むわけにはいかない。

幸せな生活を自らの手で打ち砕いた萌は、心の中で泣きながら、ただひたすらに晴臣の幸せだけを祈っていた。