萌が告発を決意した数日後、晴臣は予定よりも二日ほど遅れて帰国した。

「ただいま。萌」
「おかえりなさい」

一週間ぶりに会う彼は、出迎えた萌を嬉しそうに抱き寄せる。

以前の萌ならば、晴臣の背中に腕を回し、たった一週間離れていただけでも寂しかったのだと本音を打ち明けていたかもしれない。

けれど、今の萌には心に秘めているある決意がある。無邪気に抱きしめ返すことはできなかった。

いつも萌のちょっとした変化に気付く晴臣も、リビングのソファに座るとやや硬い表情をしていて、やはり出張の疲れが出ているのだろうと感じた。

決意が鈍らぬようできるだけ早く話してしまいたいが、仕事で海外から帰ってきたばかりの疲れている時ではタイミングが悪すぎる。

せめて明日にしようと考えていると、晴臣は「萌、話があるんだ」と姿勢を正して切り出した。

彼は両手では持ちきれないほどの海外土産をずらりと並べると、そのうちの一番小さな紙袋を手に取った。高級感のある黒色に白色の文字で印字されたブランド名は、憧れのプロポーズリングのランキングで常にトップになるほどの人気ぶりで、そういう類に疎い萌でも知っているニューヨークに本店を構える老舗宝石店だ。