しかし不正使用であるとわかっているのに、それを帳簿に記載するなど萌にはできない。

「叔父さん。この領収書、きちんと精査してありますか? 業務に必要ないものまで計上してしまっては――――」
「余計なことはいい。言われたことだけをしろ」

淡々と切り捨てられ、萌は目の前が真っ暗になった。

翔子や玲香だけでなく、会社のトップである健二もまた不正を正すつもりはないという。

(もう、ダメだ……)

一縷の望みすら絶たれた。萌は持っていた領収書をデスクに置き、自分のバッグを引き寄せる。

「……私は、できません」
「なんだと?」
「先ほど叔母さんに言った通り、経費の不正使用は犯罪です。お父さんが大切にしていたこの会社で、犯罪の手伝いなんて絶対にしません」
「お前、なにを」
「私はもう、あなたたちの言いなりにはならない……!」

そう言い放つと、萌は勢いよく走り出し、健二が入ってきたばかりの扉から飛び出した。