実際、現在の秋月工業の社長のひとり娘は玲香である。彼女は萌とは真逆の派手な美人で、交友関係も華やかだ。

しかし桐生自動車から見合いの打診を受けたのは、前社長の娘であり玲香とは従姉妹である萌だった。

それを知った翔子と玲香は憤りをあらわにし、桐生自動車の御曹司について調べた。

桐生晴臣、二十九歳。桐生自動車社長のひとり息子で、彼自身も非常に優秀だと評判だ。現在は第一開発部の部長を務めている。

いずれ会社を継ぐであろうその肩書きに加え、なによりも彼女たちの目を惹いたのはその美しい容姿だった。

ダークブラウンの髪はサラサラと指通りがよさそうで、長めの前髪を左目の上で分けている。

大きく意思の強そうな目は知性を感じさせ、口角の上がった唇は初対面の相手にも威圧感を与えず優しげな印象だ。

細身だが長身なためスーツがとてもよく似合い、写真からも品のよさが滲み出ている。

普段、自分たちよりも格下だと蔑んでいる萌に、大企業の御曹司、それも類稀な容姿の持ち主との縁談が持ち上がるなど、翔子と玲香にはとても許せなかった。