そんなことを考えながら歩いていると……。

「おい、邪魔だ」
 
 道を塞いでしまっていたみたいで、そう言われてしまった。

「あ、すみません!」

 声のする方に振り返ると、その人と目が合ってしまった。

「ボケっとするな。通行の邪魔だ」

「すみませんでした」

 あれ……この人、どこかで……。

「……なんだ。さっきから」

「いえ、あの……なんでもないです」

 どこかで見たことある人なんだけど……どこで見たんだろう? 全然思い出せない。
 名前すらも思い出せなくて、誰だか分からない。

「そんなボケっと歩いてたら、ひったくりにでも遭うから気を付けろよ」

「は、はい」
 
 その人は急ぎ足で私の前から立ち去っていく。

「誰だっけ……あの人」

 どこで見たんだっけ。 ダメだ……やっぱり思い出せない。

「まあ……いっか」



 それから二週間が経った頃だった。

「おい、美耶子。準備出来たか?」

「うん、OKだよ。行こうか」
 
 営業に出るため、私は同期の早崎(はやさき)と共に営業先へと向かうことになった。

「知ってるか?美耶子」

「ん?」

 営業先に向かう途中の電車の中で、早崎は私に「今日の営業先の御堂山病院には、゙悪魔゙って呼ばている天才外科医がいるらしい」と私に言った。

「え? あ、悪魔……?」