「美耶子……君には、本当に申し訳ないと思ってる」

「……椿、私なら大丈夫だよ」
 
 左手の薬指に嵌っているその婚約指輪は、椿からもらったものだ。
 私はその婚約指輪を右手ですっと抜くと、椿にそっと返した。

「椿……これ、返すね」

「え……?」

「私たち、もう別れるし。 だからもうこれは、私には必要ない」

 私は椿の隣から立ち上がると、「椿……今までありがとう。……幸せに、なってね」と椿に背を向けて歩き出した。

「……美耶子」

 本当は、椿のことが大好きだった。これ以上ないってくらい、愛してた。
 もう私には、椿しかいないと思ってた。
 
 なのに……まさかこんなことになるなんて……。

「私って……本当に男運、ないな」

 今まで付き合ってきた男たちとは、本当にうまくいかなかった。
 結婚を意識していたのは、ずっとあった。でも婚約したのは、椿だけだった。
 椿となら、幸せになれると思っていたのに。……なんで、こうなるのだろうか。

「私……やっぱり幸せになれないのかな」

 婚約破棄をされた以上、もう幸せになるなんて難しいのかな……。
 ようやく結婚が決まって、親にも安心させてあげられると思っていたのにな……。

「もう……いいや」

 大切な人を失ってしまって、私は途方に暮れそうだった。
 未来が、何も見えない。