「あの、井手先輩っ」


大きく名前を呼ぶと、先輩は驚いたのか目を丸くした。

だけど私は気にせず前を見る。

どうしても、伝えたいことがあったから。


「先輩の気持ちはとっても嬉しいです。でも、今もこれからも……私の好きな人は彗だけなんです!」


ぎゅっと拳を握り、一思いに吐き出した。


嘘なんかじゃない。

これだけは本当だって、自信を持って言える私の気持ちだから。



「ふはっ。ははは……そっかぁ」


〝だからごめんなさい〟

ぺこりと下げた頭に降ってきたのは、そんな笑い声だった。

急いで顔を上げると、ペタンと膝をつく先輩の様子が目に入って、私は無意識にも手を差しだしていた。


「あの……」

「ありがとう」


そう言って私の手をとった井手先輩。

そのまま立ち上がった瞬間、ズボンのポケットから何かがコロンと飛び出して……。


……これは?


それがキーホルダーだと理解した時、先輩はポツリと呟いたんだ。


「こんなにそっくりな子、運命だと思ったのになぁ……」