「もうわかったよ!」


激しく鳴り響く鼓動を切り裂くように、落とされた声。

同時に縮まる距離がピタリと止まる。


私の身体は、唇が重なる寸前というところで解放された。


……助かった。

もう少しで心臓が破裂しちゃいそうだったから、本当によかった。


だって先輩を信じさせるためとはいえ、あのまま先輩が声を出さなかったら、私たち……。



「なんで市ヶ谷なの? 俺じゃあダメかな」

「……っ」


ドキドキと鳴り止まない心臓の中、悲しそうな目が私の心をグサリと突き刺した。


「先輩……」


胸が痛くなる。


自分のことで頭がいっぱいだったけど、この人は、私のことを本気で好きになってくれたんだ。

そして何回も何回も、気持ちをぶつけてくれた。


なのに……なのに私は、断るために嘘をついた。