「彗!」

「アンタなにしてんの?」

「チィっ、市ヶ谷彗……!」


気づけば、彗が先輩の手首を掴んでいた。


「俺ぁ変な噂が流れてたから、みなみちゃんに本当か確かめに来ただけだっての」


噂……。たぶん、私と彗が付き合ってるってことだ。

だから先輩、あんな顔してたんだ。



「まだ信じられません?」

「そりゃあ、だってなあ」


淡々と質問をする彗に、露骨に怪訝そうに顔を歪める井手先輩。

その様子を呆然と見ながら息を呑むと、彗がまたもや小さく口を開いた。


「なんなら見せましょうか? みなみが俺のだって証拠」


……えっ。

証拠……?


パチリと瞬きをした次の瞬間。


「きゃっ」


わけもわからないまま腰に回された手。

もう一つの手が私の頬に触れたかと思えば。


「ごめん」


そんな囁き声と共に視界が彗でいっぱいになった。

その距離は、僅か数センチ。


「す、い……?」


思考能力が低下した私は、動くこともできない。

ただ、うるさい心臓で近づくその顔を見つめるだけ。


──ドクン、ドクン。


……ねぇ。いいの、彗?

このままじゃ──。