「ちょっ、市ヶ谷くん! まだ答え聞いてないけど!」


慌てたように樹里が声を飛ばす。

するとピタリ、足を止めた彗が顔だけこっちを向けるように振り返って。


「……言わなきゃわかんない?」


──ドクンッ。


一瞬、時が止まったみたいな感覚がした。

目を細め薄らと口元に笑みを浮かべるその表情があまりに妖艶だったから。


私だけじゃない。

きっとここにいた誰もが同じ感覚に囚われたはず。


「……なにあの色気」

「市ヶ谷彗……恐るべし、だわ」


再び時が動き出すや否や、樹里と美月がこっそりと呟いた。


「そうだ、みなみ。今日帰り、予定は?」

「え?」


じっと目を離せないでいると、目線がぶつかると同時にそんな質問が飛んできた。


「特にないよ?」

「んじゃ、昇降口前集合な」

「う、うん……!」


……わっ、どうしよう。

それって一緒に帰ろうってことよね。


教室へ入っていく後ろ姿を見送る中、頬が緩んでいくのがわかった。

嬉しい。彗と帰るの久々だ。