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……来てしまった。


とある家のインターホン前。

何回も押したことのあるそのボタンを押すのは、本来ならば容易いこと。

普段は全く緊張なんてしないのに、どうにも今日はその反対で、バクバクと鳴る心臓に押し潰されそうになっている。


「よし」


ふぅ、と心を落ち着かせてから、私は震える手をそっとそれに伸ばした。



──ピーンポーン。


「はーい!」

「あのっ、栢野です!」


ボタンを押してすぐ、インターホン越しに応えてくれた女性に名乗ると、「ちょっと待っててね」という声が続いた。

それから暫くして、ガチャッという音と共に目の前のドアが開かれた。