「このままじゃ、つらいだろ?」

「ううん、平気だよ」


だって……まだ見られてないのに。

帰りたく、ない。


「無理しなくていーから」

「無理なんか……」


そこまで言って、呑み込んだ。


そっか。

そういうこと。



──彗は、覚えてなかったんだ……。



「みなみ?」

「ううん。……帰ろっか」


ちくりと胸が痛んだ。

だけど私はそれに蓋をするように、心配そうに見つめてきた彗ににっこりと笑った顔を向けた。


ちょっと悲しいけど、思えば普通のこと。


あんな子どもの頃の約束……逆に覚えてる方がすごいよ。

私だって、ついこないだ思い出したんだもん。


勝手に期待して、勝手に楽しみにしてただけ。



「背中、乗って?」


心に湧き上がるものを抑え込んでいると、彗がそう言って私の前にしゃがみ込んだ。