「アンタ、朝からよくやるわね〜」


教室に入るとすぐ、後ろからガッシリ肩を叩かれた。


「え、樹里いたの?」

「失礼ね。靴箱からずっと後ろにいましたけど」

「あはっ、ごめんなさい」


振り向くや否や全然気づかなかったと謝ったら、やれやれとため息をつかれた。

申しわけない上にちょっぴり恥ずかしい。


「……それより」

「ん?」


ふと切り出された声に首を捻る。

すると、目の前顔が僅かに前のめりになった。


「市ヶ谷くんって何のバイトしてるの?」


樹里と美月は、ここ数日様子のおかしかった私のことを心配してくれていた。

だから、私は彗と両想いになれたあの日、2人には全部打ち明けたんだ。


噂を聞いて悩んでいたこと。

その噂が実は間違いで、一緒にいた女の人は五代くんのお姉さんだったこと。

そして、五代くんのお姉さん──茉莉也さんが彗にバイトを頼んでいたこと。


「ああ、それなら……」


しかし、答えようとした声が途切れた。


えっと……あれ?

隈無く頭を捜索した後、出たのは少し間抜けな声だった。



「なんだっけ?」