「嘘じゃない」


低く響いた言葉と共に、力強い腕が私を包んだ。


「好きだから、あの時ムカついたし焦った。……ごめん」


それはきっと、昨日喧嘩した時のこと。


ああやって冷たかったのは、私が隠し事をしたから?

私はそっと、確かめるようにその背中に手を回す。


「私こそ、逃げてごめんなさい」


あの時はただ焦って八つ当たりみたいに想いをぶつけて、飛び出してしまった。


「……でも私、彗に好きな人がいるんじゃないかって思って。それで……」

「それって、茉莉也さんのこと?」

「……うん」


ひっついていた身体を一度起こし、ドキドキと見つめる。


「誰なの、茉莉也さんって……? デート、してたんじゃないの?」


思い切ってそう口にしたら、彗は少し驚いたような顔をした。



そして。


「あの人は──」


一息に言ったんだ。


「千也の姉貴」

「え」


一瞬固まってしまった。


千也の姉貴って。

五代くんのお姉さん!?