きゅっと膝の上の拳を強く握った時だった。

いきなりそんなことを言ってきたかと思えば、


「なんでさっき泣いてたの」

「……っ」


降ってきたその声と視線に思わず息を呑んだ。


気づかれてるとは思わなかった。

や、見たらわかるよね。


焦る頭で考えながら、あははととぼけるように笑う。


「あ、あれー。なんでだっけ?」


……しかし。


「アイツには言えるのに俺には言えないんだ」


冷たい目が胸を突き刺して、体温を奪い去った。


彗……?

どうしたの?

なんか、勘違いして──。



──ピリリリ。


と、その時電子音が空気を裂いた。

この音は私のじゃない。彗のだ。


「悪い」


彗はそう言って、スマホを片手にドアの向こうに移動する。


牧くん? 五代くん?

それとも、佐渡くんからかな?



「ごめん茉莉也(まりや)さん、また後でかけ直す──」


ドア越しに微かに聞こえたのは、そんな声だった。