───ピリリリリ。


鳴り響くアラームの音に、もう朝なんだと気づく。


昨日は中々寝付けないかと不安だったけれど、よかった。

思ったよりぐっすり眠れた気がする。


……それもやっぱり、お母さんの美味しいご飯のおかげね。



「彗、おはよ!」

「……はよ」


身支度を済ませた私は、いつものように挨拶をしてその隣に並んだ。

いつも……といっても、なんとなく気まずい空気は否めないのだけれど。


……やだなぁ、私。


『あたし、市ヶ谷くんは絶対あの人とくっつくと思ってた』

『あれでしょ? 前にデートしてたって噂のイケイケお姉さん』


あれから一夜明けた今でも耳に焼き付く、その記憶。

忘れようとしてたのに、無理みたい。


思い出しては、どうしても落ち込んでしまうんだ。


でもだって、全然知らなかったんだもん。

彗にそんな存在がいたってこと。


……もちろん、本人からも聞いてない。


中学くらいの時はよく質問とかはしてたんだよ?

『好きな人いるー?』なんて、気軽に。


お前だよって言ってくれることを期待して。

なのにいつも「さあな」ってはぐらかされて。


結局、一度だって答えを知れたことはなかったんだけどね。