「あれでしょ? 前にデートしてたって噂のイケイケお姉さん」

「そーそー!」


……うそ。

嫌な汗が吹き出す。


「実際に見たって子から聞いたんだけどね? めちゃくちゃ美人さんだったんだって。あたしも見てみたかったな〜」

「えー、私も〜」


……デート、する人いたんだ。


ドクドクと黒い靄のようなものが心に渦巻き、体温を奪った。


──彗はその人のこと、好き……なのかな?


こんなの想定してたことなのにね。

もしかしたら私が知らないだけで、彗には想い人がいるのかもしれない。

私なんかよりももっと親しい間柄の人がいるかもしれない。

そんなこと、少し前まではわかってたはずなのに。


……なんで忘れてたんだろう。


忘れて、もしかしたら彗も私のこと好きなの?

とか思っちゃった自分が恥ずかしい。


でも、そうよね。


私たちは幼なじみで、偽の恋人同士。

ただそれだけ。


彗が優しいからって……。


「……っ」