「やっ、違っ」

「へぇ」


否定しかけた唇を彗の親指がくいっとなぞる。

くすぐったくて、変な感覚。


ドキドキしながら目線のやり場に困っていると、ようやく解放された。


「……まあいーや。つーか、早く戻んないと授業遅れるよ」

「うそ!」


咄嗟に時計を見たら、チャイムが鳴る2分前になっていた。


「……て、彗は?」

「頭痛えから、もう少し寝とく」


頭って……。


「サボりじゃないの?」

「失礼しちゃうね」

「え、ごめん。そんなつもりなくて!」


もう牧くーん!

急いで頭の中の彼にツッコミを入れると同時、彗がフッと小さく息を零した。


「どーせ大志とか京平とかそのへんに言われたんだろ?」


……よ、よくおわかりで。


「じゃああの……お大事にね! 早くよくなりますように!」


それだけ言うと、私は保健室から出て素早く戸を閉めた。

その瞬間、一気に身体から力が抜けたみたいに足が止まって、無意識にもその場で立ちつくしてたんだ。