「す、彗?」

「んー?」

「あの、私話してる途中というか……っ」


なんで私、抱き締められてるのでしょうか……?

それも、ちょっと痛いくらいに。


気まぐれ?

からかってる?

それとも、なにか別の理由?

何が何だかわからなくて、頭にあったはずの言葉が散り散りになって消えていく。


というのに。


「いいよ、そのまま喋ってよ。聞いてるから」


そんなの無理に決まってるじゃん……!


恥ずかしくてたまらないし、顔だって絶対真っ赤。

こんな状況で平静でいられるわけ……。


……あ。


「もしかして彗、恋人のフリしようとしてくれてる?」


ふと思いついたけれど、正解かもしれない。

これからまた暫く継続することになったわけだし。


不審がられないように、こうやって学校のみんなにアピールしようとしてるとか──。



「……みなみがどんな反応するか見てみたかっただけ」

「え」

「じゃあ、練習行くわ」

「ちょっと……!」


彗は腕の中から私を解放すると、本当にすたすたと下駄箱の方に歩いていってしまった。



「……もう」


わかった。そういうことね。

宙くんのこと詮索したから、怒ったんだ。


だからって、人のことからかうのは酷くない?



……ドキドキしちゃって悔しいじゃない。