「じゃあね、栢野さん。また後で練習見に行くから」


ポンっと、私の肩に手を置いたかと思えば、ありがとうと言って職員室の中に入っていった。


……そっか。

宙くん練習付き合ってくれるんだ。

楽しみだなぁ……って!



「待って!」


咄嗟に腕を掴む。

危なかった。

彗ってば、何も言わずにどこかに行こうとするんだから。


「宙くんのこと、知ってたんでしょう?」

「……それがなに」

「なんで教えてくれなかったのー?」


もう、と不満を洩らす。

だけど合わせようとした目が逸らされた。


「別に。意味なんてない」


……別にって。

朝佐渡くんが言ってたけど、もしかしてまだ機嫌直ってなかったりする?


「そうだ。彗はもう宙くんの授業受けた? 先生姿すごくかっこよかったよ! 見たら絶対びっくり──」


……っ!

声にならない声が出た。


だって彗がいきなり腕を引っ張ってきて。

気づけばその腕の中にいたのだから。