「おん? 誰や?」

 デカい浅尾っちの後ろから顔を出したんは、額に冷却シートを貼った男。色白でパッチリ二重。少しだけ小柄で線が細い。まるで女のような……ん? 女?
 可愛い顔に見合わぬ、このひっくーい声。まさかこいつは……?
 
「り、リンかお前ッ!?」
「そうだよ? あれ、一佐って俺の通常バージョン見たことないっけ」
「あるかい! なんなら会うのは例の一件以来やんけ!」
「あはは、そうだっけ。ヨネとはちょいちょい会うからさぁ、なんか一佐にも会ってる気になってたわ」

 ちょいちょい会っとるんか。ヨネはさすがのコミュ力やで……。

「ていうか、なんでここにいるわけ? 一佐は法被隊だって、長岡君が言ってたけど」
「浅尾っちが倒れた思て飛んできたんやッ! 熱中症で誰かダウンしたんやろ?」
「あ、それ俺。暑いの苦手だからさぁ、クラっときちゃって。でもダウンって大袈裟だし。少し休んで体を冷やして、水分補給したら復活したよ」

 するとリンは、黙って立ち去ろうとしていた浅尾っちの二の腕をガッと掴んだ。その姿はまさしく、獲物を狩るライオンのようであった。知らんけど。

「やっと浅尾君と再会して仲良くなったのが嬉しくて、ちょっと張り切りすぎちゃったんだよね」
「別に仲良くはなってねぇけど」
「あはは! めっちゃクールだよね~浅尾君! 表情まったく変わらないんだもん。知ってる? キミ、鉄仮面って呼ばれてるんだよ」

 ……なんや、ちょっとジェラッときたやん。おれは避けるくせ、リンの腕は振り払わんのやな。ほんま、いけずなお人や。せやけど、そんなところもス・テ・キ……って何度も言うが、この気持ちは尊敬と興味やで?
 
「ま、まぁなんにせよ、2人とも元気なら安心したわ。猛暑日が続くて言うとるし、ほんま気をつけてな」

 浅尾っちの無事は確認したし、あまり長くお花摘みをするわけにはいかんので、そろそろ持ち場へ戻ることにした。
 ああ、めっちゃ走ったさかい汗だくや。Tシャツがぐっしょりなっとるで。戻って水分補給せな、おれが熱中症になってまう。
 
「小林」

 珍しく浅尾っちに呼び止められる。そして振り返った瞬間、ペットボトルの麦茶が眼前に飛んできた。

「1本やる」
 
 慌ててキャッチすると、浅尾っちは一切表情を変えずに言って、すぐ背中を向けた。
 ……なんや。なんやなんやなんや! めっちゃ優しいやんけッ! めっちゃかっこええやんけッ! と、ときめくーッ!

「あ……ありがとなー!」

 やっぱり振り返らんし無反応!

 せやけど、おれが汗だくだくダックなのに気ぃついたんやろ? 自分を心配してくれた御礼ってことやろ?
 分かっとるんやで。浅尾っちは人のことよう見とるし、さりげない気遣いができる男やって。せやから好っきゃねん。

 おれは浅尾っちのLOVEを喉に流し込みながら、法被隊の作業場へと戻った。