「だだだ誰や!? 倒れたんは誰なんやッ!?」
「そ、そこまでは聞いてないけど」

 あかん、あかんで。このままやと、おれのデリケートハートがちぎれてギザギザハートになって作業に集中でけへん。
 ひと目だけでええから、浅尾っちの無事な姿を確認したいッ……!

「ち……ちょっと……お花を摘みに行ってきますぅぅぅ!」

 言い終わらんうちに、おれは部屋を飛び出していた。

 やはりおれも御輿隊にするんやった。どれだけヒデがオカンでも、浅尾っちはおれがそばで見守っとかなあかんかったんや。
 おれなら浅尾っちの些細な変化も分かる! なぜかって? いっつも観察しとるからや! 首の後ろの小さなホクロの位置まで把握しとるッ!

 ……そこの君、いま「キモッ!」て言うたやろ? 観察は絵描きの基本やで。好きなもんをじっくり観てしまうんは、画家の(さが)っちゅーやつや。決しておれが変態だからではないッ!

 お、見えた。御輿隊の作業場所はあそこやな。巨大な発泡スチロールの塊があるで。浅尾っちの姿は……見当たらん。あの派手な服が見当たらんぞ。

 嗚呼ッ! やはり倒れたんは浅尾っちなんかッ! おれがそばにおらんかったばかりにッ! ヒデは一体なんしとんねん! ヒデも見当たらんやないか! もしかして病院に付き添っとるんか!? どこや、どこの病院に行ったんや浅尾っちッ……!
 
「……なにやってんだ、お前」

 背後から声が聞こえる。これは……この甘くて低いイケボはッ……!

「法被の作業はサボりか?」

 振り返ると、そこにはコンビニの袋を手にした浅尾っちが立っていた。
 
「あ……あ……浅尾っちぃぃぃ!」

 思わず、そのデーハーすぎる花柄シャツに飛び込ん……だと思いきや、寸前でサッと横に避けられ、地面にヘッドスライディングすることに。うぅん、いけずッ!
 せやけどめげないおれは、這いつくばって浅尾っちの足に絡みつく。
 
「浅尾っちぃぃ!」
「暑苦しいな。なんだよ一体」
「無事やったんやなぁぁぁ!」
「は?」
「さっき、御輿隊の誰かが熱中症で倒れたっちゅーのを聞いてな。てっきり、いっつも具合悪そうな浅尾っちが倒れたんちゃうかって……めっちゃ心配やってん……」

 あかん、ちょっと涙出てきたで。安堵の涙や。熱中症で死んでまうこともあるやん? 冗談抜きで、ほんまに心配してたんやで。

「……そりゃ悪かったな、心配かけて」

 なんや、妙に素直やな。トゥンク……ってなるかいッ!
 立ち上がって、改めて浅尾っちの顔を見る。いつも通り無表情で青白いが、とりあえず元気そうでよかったわ。

 にしても、ちゃんと御輿の制作には参加しとるんやな。完全に他人を拒絶しとるわけやないのは分かっとったが、ちょっと意外やわ。

「浅尾っちが無事なんはよかったけど……まさか、ヒデが熱中症になったんちゃうよな??」
「長岡はバイトがあるから来てねぇよ」
「せやった、昨日そう言うてたわ。ほな、誰が熱中症やて?」
「あれ、一佐じゃん!」

 浅尾っちの背後から、誰かが声をかけてきた。