恐らく浅尾っちはオシャレ好きや。ブルーアッシュなんてオシャレ上級者の髪色やろ?そしてグレーのカラコン。普通のスーツを着ていても、おれの目は誤魔化せん。
 それならば、この話題でどうや!
 
「浅尾っちの髪、かっこええなぁ!どこの美容室行っとるん?やっぱ表参道とか代官山か?おれはなぁ……セルフ美容室やねん!」

 ……無言。あかんか。間に挟まれているヒデが苦笑する。よっしゃ次の話題いこか!

「浅尾っちは、浅尾瑛士の息子なんやろ?おれなぁ、浅尾瑛士の“鎌倉の鶯《うぐいす》”がめっちゃ好きやねん」

 お、こっち見た。なるほど、父親の話題は効果的なんやな。このまま攻めていったろ。

「あの色づかい、惚れ惚れするよなぁ!浅尾瑛士の絵は構図も神やけど、おれはやっぱり色づかいが好きやなぁ。独特の風合いっちゅーか、現実的なようで幻想的で……どないしたら、あないな色出せんねやろーって」
「……何度も塗り重ねてあるしな」

 答えてくれたッ……!な、なんやこのトキメキ。胸の奥の鶯が鳴いとるで……まさかこれは、恋?

 しかし浅尾っちは、すぐにおれから視線を外した。なんや、もう終わりかいな。キャッチボールにならへんな。

「小林君も、浅尾瑛士が好きなんだね」

 代わりにヒデが会話に加わる。やはり目配り気配り心配りができる男やな。おれの中のヒデ好感度メーターが振り切れるで。
 
「なんやヒデ。“小林君”て他人行儀やないか」
「え、他人だし……」
「おれは一佐や!ちなみに、お茶やのうて佐川急便の佐やで!荷物は運ばへんけどな!」
「えっと、小林君は」
「おーん?誰や小林君って?どこのおんのや?」
「……い、一佐は関西出身なの?」

 さすが、話が分かる男や。これでもうマブダチやで!

 浅尾っちは、まったく興味がなさそうに欠伸をしているけどな。まぁええねん。こういうタイプは、少しずつ心の距離を詰めるのが鉄則っちゅーもんや。それが一佐流オープンザハート!

「おう。実家は京都やねん。ヒデと浅尾っちは東京が地元なんか?」
「俺は世田谷だけど、浅尾は横浜だったよな」
「ほほー!横浜と言えば中華街やな!やっぱり浅尾っちも中華が好きなんか?」

 ……はい、無言ー!分かっとったで!シャイボーイやしな、浅尾っち!
 
「えっと……浅尾が普通のスーツ着てくるとは思わなかったな。いつも通り派手にしてくるかと」
「入学式で、わざわざ目立ちたくねぇんだよ」

 ヒデにはすぐ言葉を返すということは、やはり慣れが必要なんやな。焦りは禁物やで一佐。少しずつ、少しずつや。

 ……って、なんでこない必死になっとるんや。なんやよう分からんが、浅尾っちが気になってしゃーない。やはりこれは……恋?